書籍「エモい古語辞典」

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はじめに:なぜ今「古語」なのか?

現代の若者言葉として定着した「エモい」。その表現の奥行きを古語で掘り下げるという逆説的かつ画期的なアプローチで注目を集めたのが、堀越英美氏の著書『エモい古語辞典』です。本書は、ただの辞典ではなく、言葉の背後にある感情や文化的背景を“創作者のために”キュレーションした、感性に訴える表現のツールキットとなっています。

現代語「エモい」と古典語「あはれ」の架橋

言葉を通じて感情を“再発見”する辞典

本書の核となるのは、現代の“エモい”という感覚を、古典日本語の「もののあはれ」「幽玄」「可惜夜(あたらよ)」といった情緒的な語彙と結びつける試みです。この接続により、現代人が漠然と感じる感情を、歴史的な感性の延長線上に位置づけ直すという知的挑戦がなされています。

『エモい古語辞典』の特徴と構成

概要と書誌情報

  • 書名:エモい古語辞典
  • 著者:堀越英美
  • イラスト:海島千本
  • 出版社:朝日出版社
  • 発売日:2022年7月7日
  • ISBN:978-4-255-01301-5
  • 判型・ページ数:四六変形判・約184ページ
  • 定価:1,782円(税込)

辞書なのに五十音順ではない──テーマ別構成

本書は「天文」「自然」「人生」「物語」「言葉」の5章構成となっており、あえて五十音順を排して読者の偶然の“発見”を誘います。これはインスピレーションを得るためのセレンディピティ的設計であり、特に創作者にとってはありがたい工夫です。

収録語数は1654語──時代・文体を超えた網羅性

『万葉集』から明治・大正期まで、時代を超えて集められた語彙群は、恋愛・自然・死・宗教・怪異など幅広いテーマを内包しており、小説・歌詞・マンガのモチーフ選びにも活用できます。

実用性と美意識を兼ね備えた「創作者の辞典」

感性を刺激する「言葉のキュレーション」

たとえば、

  • 可惜夜(あたらよ):明けるのが惜しいほど素晴らしい夜
  • 泡沫(うたかた):儚さの象徴としての水の泡
  • 泥む(なずむ):物事が進まず、執着する様子(現代語「沼る」に近い)
  • 両面宿儺(りょうめんすくな):神話的存在で現代アニメ『呪術廻戦』にも登場

これらの語彙は、すでに創作に活用されている文脈を提示しながら、新たなインスピレーションを提供します。

古語+現代語訳+引用文の三段構成

語彙の意味に加えて、古典文学や和歌からの引用と現代語訳が添えられており、古語の文脈を失うことなく、読者の理解を深めます。たとえば「心憂し(こころうし)」が「ウザい」と訳されるなど、あえて俗語的に落とし込む訳が、感情的共鳴を引き出しています。

著者とイラストレーターによる“共鳴的設計”

堀越英美氏──言葉とジェンダーを見つめる文化批評家

早稲田大学第一文学部卒の文筆家・翻訳家。著書には『モヤモヤしている女の子のための読書案内』『ささる引用フレーズ辞典』などがあり、社会・文化と表現を接続する視点が一貫しています。

海島千本氏──ターゲットに刺さるビジュアル表現

アニメ『ブラック・ブレット』や『Fate/Grand Order』などを手がけた人気イラストレーター。彼女の幻想的な絵は、本書の感情的な世界観を可視化し、ターゲット層(アニメ・創作ファン)に深く刺さる設計となっています。

誰のための本か?──ターゲット層の分析

  • 一次ターゲット:作家・漫画家・作詞家などの「創作活動者」
  • 二次ターゲット:アニメ・ゲームなどのファン層(とくに“厨二病”美学を好む層)

現代的な語彙力不安に応えつつ、創作に活用できる表現の引き出しを広げる本書は、単なる辞書というより“感情表現の道具箱”として機能しています。

まとめ:過去の言葉で、未来の表現をひらく一冊

『エモい古語辞典』は、単なる言語辞典ではなく、現代の表現者が持つ「語彙への渇望」に応え、創造的な表現の支援ツールとして優れた構成と感性を備えています。
アナログとデジタル、過去と未来、感性と知性──それらを架橋する“辞典”というフレームワークが、かつてない「エモい」言語体験を生み出しているのです。