
2021年に放送され、大きな話題を呼んだ完全新作TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』。ゴジラシリーズ初の国内制作TVアニメとして、そして豪華スタッフ陣による意欲作として注目を集め、その独創性から第53回星雲賞(メディア部門)を受賞するなど、高い評価を得ています。
物語の核心:謎が謎を呼ぶSFミステリー
あらすじ:二人の天才と世界を揺るがす”歌”
舞台は2030年の日本、千葉県逃尾市。
- 有川ユン(アリカワ・ユン):町工場「オオタキファクトリー」で働く天才エンジニア。誰もいないはずの洋館の調査に向かう。
- 神野銘(カミノ・メイ):”存在しない生物”を研究する大学院生。旧嗣野地区管理局「ミサキオク」で受信された謎の信号の調査を依頼される。
全く面識のない二人は、それぞれの場所で奇妙なインドの古い歌を耳にします 。この歌は、50年前に失踪した孤高の物理学者・葦原道幸(アシハラ・ミチユキ)が遺した研究と深く関わっていました。
時を同じくして、世界各地で怪獣が出現し始めます。日本でのラドン出現を皮切りに、アンギラス、マンダ、インドのサルンガ、そして様々な形態を持つクモンガなどが次々と現れ、世界は赤い謎の物質「紅塵(こうじん)」に覆われていきます。
ユンと銘は、オオタキファクトリーの仲間たちや、それぞれのAIパートナーであるペロ2とユング、研究者、政府関係者らと共に、歌と葦原の謎、そして怪獣出現の真相を探ります。彼らが追うのは、葦原が発見したとされる未来の新素材「アーキタイプ」と、彼が予言した避けられない「破局」――究極の怪獣ゴジラの出現です。
果たして二人は、複雑に絡み合った謎を解き明かし、人類に訪れる抗えない未来を覆すことができるのでしょうか?
物語の鍵を握る要素
- 謎の歌とミサキオク: 物語の発端となる歌と、葦原が創設した電波観測所。
- 紅塵(こうじん): 怪獣出現と連動する赤い粒子状の物質。電子機器に障害を与え、怪獣の存在基盤ともなる。
- アーキタイプ: 葦原が発見したとされる、物理法則を破る未来の新素材。時間操作やエネルギー増幅の可能性を秘める。
- 破局(カタストロフィ): 葦原が予言した、ゴジラ出現に繋がる終末的な出来事。
- オーソゴナル・ダイアゴナライザー(OD): 破局を回避する唯一の対抗策とされる理論上の物質/装置。
物語は、ユンと銘が別々の場所で情報を集め、時にチャットで連絡を取り合いながら、パズルのピースを組み合わせるように進んでいきます。視聴者も彼らと共に、難解な謎解きに挑むことになるでしょう。
魅力的なキャラクターと再解釈された怪獣たち
個性豊かな登場人物と頼れるAI
本作の魅力は、複雑なストーリーだけでなく、個性的なキャラクターたちにもあります。様々な立場の人物が登場し、それぞれの思惑が交錯しながら物語は進んでいきます。
神野銘(CV:宮本侑芽)
- 大学院生(空想生物学)/ 理論担当
- 天才的だが少し抜けている。アーキタイプと葦原の謎を追う。
有川ユン(CV:石毛翔弥)
- オオタキファクトリー / エンジニア・プログラマー
- 天才的技術者。ロボット開発や怪獣との直接対決を担当。
ペロ2(CV:久野美咲)
- 銘のAIパートナー(犬型)
- ユン開発の「ナラタケ」から誕生。研究・通信をサポート。
ユング / ジェットジャガー(CV:釘宮理恵)
- ユンのAIパートナー / ジェットジャガーのAI
- 「ナラタケ」から誕生。後にJJに搭載され、その意識となる。
大滝吾郎(CV:高木渉)
- オオタキファクトリー社長 / 発明家
- 通称「おやっさん」。UFO好き。ジェットジャガーの開発者。
加藤侍(CV:木内太郎)
- オオタキファクトリー職員 / ユンの相棒
- 通称「ハベル」。ユンをサポートする力持ち。
金原さとみ(CV:竹内絢子)
- オオタキファクトリー事務員
- パンク風の外見。工場を支える。
佐藤隼也(CV:阿座上洋平)
- 元ミサキオク主任職員 / 外務省官僚
- ミサキオク内偵のため出向。事件に巻き込まれる。
李桂英(CV:幸田夏穂)
- シヴァ共同事業体顧問研究員 / 計算化学者
- 銘の才能を見出し、アーキタイプ研究に誘う。
ベイラ・バーン “BB”(CV:置鮎龍太郎)
- シヴァ・ウパラ研究所研究部長
- 優秀だが傲慢。アーキタイプとODを研究。
海建宏(CV:鈴村健一)
- 自称独立ジャーナリスト
- 素性不明。怪獣情報を集めている。
葦原道幸(CV:井上和彦)
- 物理学者 / ミサキオク創設者
- 50年前に失踪。アーキタイプ、特異点、破局を研究・予言した中心人物。
伝統と革新! 新たな姿で現れる怪獣たち
『ゴジラ S.P』では、お馴染みの東宝怪獣たちが、山森英司氏による斬新なデザインと設定で登場します。従来の東宝怪獣をベースにしつつも、科学的・哲学的なテーマと結びつくよう大胆に再解釈されています。
ゴジラ
- 元ネタ:初代『ゴジラ』(1954)
- 本作での特徴:アクアティリス(水中型)→アンフィビア(両生類型)→テレストリス(陸上型)→そして究極形態ウルティマへと進化を遂げ「特異点」そのものとなる。量子的存在で、現実改変・未来予測まで可能とする。
ラドン
- 元ネタ:『空の大怪獣ラドン』(1956)
- 本作での特徴:小型・群体化され、感染性の高い怪獣として描写。電波を干渉する性質を持ち、環境異常の象徴的存在。
アンギラス
- 元ネタ:『ゴジラの逆襲』(1955)
- 本作での特徴:未来予測能力を持ち、物理攻撃が当たらない。「観測によって確率が変動する」という量子論的能力を体現。
マンダ
- 元ネタ:『海底軍艦』(1963)
- 本作での特徴:ウナギやサメを想起させる姿で水中怪獣として登場。紅塵と密接に関連。
サルンガ
- 元ネタ:バラゴン、ガバラ(東宝怪獣群の複合要素)
- 本作での特徴:紅塵を自在に操る能力を持ち、高い運動性能と野性味あるデザイン。
クモンガ群
- 元ネタ:『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967)
- 本作での特徴:クモ型怪獣が複数種に進化し、適応的・多様な姿で襲いかかる。紅塵との親和性も高い。
これらの怪獣は、単なる破壊者としてではなく、本作独自のSF設定(特異点、アーキタイプ、紅塵など)と深く結びついた存在として描かれています。
制作の舞台裏:豪華スタッフと革新的映像表現
ドリームチームが集結!
- 監督: 高橋敦史(『青の祓魔師 ―劇場版―』など)
- シリーズ構成・脚本: 円城塔(芥川賞作家、『屍者の帝国』など)
- キャラクターデザイン原案: 加藤和恵(漫画家、『青の祓魔師』)
- 怪獣デザイン: 山森英司(スタジオジブリ作品などに参加)
- 音楽: 沢田完(『ドラえもん』『弱虫ペダル』など)
- アニメーション制作: ボンズ(『僕のヒーローアカデミア』など)× オレンジ(『BEASTARS』『宝石の国』など)
SF作家・円城塔氏による緻密で難解な脚本は、本作の最大の特徴であり、科学理論や哲学的な問いかけが随所に散りばめられています。加藤和恵氏による魅力的なキャラクターデザインも、作品の世界観を彩ります。
2Dと3Dの融合が生み出す映像体験
制作は、2D作画を得意とするボンズと、ハイクオリティな3DCGで知られるオレンジがタッグを組むという、異例の体制で行われました。
- ボンズ: 人物キャラクター、背景美術などを担当。
- オレンジ: 怪獣、メカ(ジェットジャガーなど)、VFX(紅塵エフェクトなど)を3DCGで制作。
この分業体制は、単なる効率化のためだけではありません。2Dで描かれた日常世界に、3DCGで生み出された異質な存在である怪獣が出現することで、その場違い感や不気味さを際立たせる効果を狙っています。オレンジのVFXチームは、リアルな質感とアニメ的な表現を融合させるため、カットごとに試行錯誤を重ね、本作独自のハイブリッドな映像表現を確立しました。
各話リスト
- 第1話「はるかなるいえじ」
- 第2話「まなつおにまつり」
- 第3話「のばえのきょうふ」
- 第4話「まだみぬみらいは」
- 第5話「はやきことかぜの」
- 第6話「りろんなきすうじ」
- 第7話「じかんのぎもんふ」
- 第8話「まぼろしのすがた」
- 第9話「たおれゆくひとの」
- 第10話「りきがくのげんり」
- 第11話「りふじんながくふ」
- 第12話「たたかいのおわり」
- 第13話「はじまりのふたり」
知的好奇心を刺激するSF要素と深遠なテーマ
難解?でも面白い!作中の科学概念
『ゴジラ S.P』を読み解く上で欠かせないのが、作中に登場する難解な科学的概念です。ここでは、物語の鍵となるものを簡単に紹介します。
- 特異点(シンギュラポイント): 通常の物理法則が通用しない時空の点。怪獣や紅塵はここから現れる。ゴジラ自身も強力な特異点。
- アーキタイプ: 未来や異次元から来たとされる謎の物質。時間を超えて情報を送ったり、エネルギーを増幅させたりできる。
- 紅塵(こうじん): アーキタイプの一種が可視化した赤い粒子。怪獣の存在に関わり、電波障害などを引き起こす。
- 超時間計算機: 過去と未来を利用して、瞬時に答えを導き出すとされる理論上の計算機。
- オーソゴナル・ダイアゴナライザー(OD): アーキタイプの最終形態。他のアーキタイプを結晶化させ、怪獣や紅塵を無力化する切り札。
これらの概念は、単なる設定に留まらず、物語の根幹を成し、キャラクターたちの行動原理や、クライマックスの展開に深く関わってきます。少し難しいかもしれませんが、これらの謎が解き明かされていく過程が、本作の大きな魅力の一つです。
作品が問いかけるテーマ
『ゴジラ S.P』は、単なる怪獣パニックものではなく、様々なテーマを投げかけています。
- 科学と神話: 未知の現象(怪獣出現)を、最先端の科学理論で説明しようと試みる一方で、古史羅(ゴジラ)図のような神話的要素も登場。科学が現代における新たな神話となり得る可能性を示唆します。
- 人類の危機対応: 未曾有の危機に対し、町工場、研究者、官僚、軍など、社会の様々な立場の人々がどう協力し、あるいは対立するのかを描きます。
- 知性のあり方: 人間の知性、急速に進化しシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えるAI(ペロ2、ユング/ジェットジャガー)、そして怪獣が持つかもしれない異質な知性、これらの対比が描かれます。特にAIの描き方は、破滅的なイメージとは異なり、人類の希望となる可能性を示唆している点が特徴的です。
- 情報と理解: 不完全で断片的な情報の中から、いかに真実を見抜き、正しい判断を下すかという、現代社会にも通じる課題を提示します。
また、本作ではゴジラシリーズの伝統的なテーマである核兵器や放射能への言及が意図的に避けられている点も特徴です。代わりに、情報、計算、未来予測といった現代的なテーマに焦点が当てられています。
その他の情報
受賞歴
- 第53回星雲賞 メディア部門 受賞 (2022年)
- 第42回日本SF大賞 ノミネート
関連サイト
関連動画
公式PV
オープニングテーマ「BiSH / in case…」
エンディングテーマ「ポルカドットスティングレイ / 青い」
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これが考察アニメだ!「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」アニメレビュー
まとめ:ゴジラの新境地を開いた意欲作
『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』は、ゴジラという巨大な存在を、ハードSFとミステリーの枠組みで見事に再構築した、野心的なアニメ作品です。
確かに、その複雑さから一度観ただけでは全てを理解するのは難しいかもしれません。しかし、繰り返し観ることで新たな発見があり、考察する楽しみも深まる、まさに「スルメ」のような味わいを持つ作品です。ラストシーンは続編を匂わせる終わり方をしており、今後の展開にも期待が持たれます(円城塔氏が第2シーズンの可能性に言及したとの情報も)。